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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第74章 惑乱


「神崎か? 少し気分が悪いとかで、保健室で休んでるぞ」

短い時間のホームルームの後、担任のその言葉を聞いて、オレは保健室へ駆け出した。

下校する生徒たちの波を押し退けながら、辿り着いた保健室は静まり返っていた。

ドアには"寝ている生徒がいます。お静かに"と書かれたプレートがかかっている。

いくつかベッドが並んでいるが、一箇所だけカーテンの閉められたベッドがある。

そろり、カーテンがレールを滑る音がしないように、中を覗いた。

「……あ、涼太?」

目を開けて横になっているみわと目が合ってしまった。

「ゴメン、寝てるかと思ったんスけど。
大丈夫っスか?」

本人が寝てないならいいやと、音も気にせずカーテンをめくって中に入り、隣に置いてあるパイプ椅子に座った。

「うん、ちょっと貧血でクラッと来ちゃって……念の為、休ませて貰ってるだけ」

「そっか」

姉ちゃんもよく、貧血って言ってたな。
そう言いながら触れた指先は、驚くほど冷たい。

貧血……ってのもあるだろうけど、違う。
それだけじゃない。

「みわ」

「……涼太に誤魔化しても仕方ないよね。なんだか……皆があの事件の事、知っている気がして。そんな訳ないんだけど、赤司さんもちゃんと手回ししてくれて、大丈夫だって分かってるんだけど」

アザが残っていた顔や身体は、知り合いのメイクさんに頼んで、特殊メイク用のファンデを塗って貰っている。

センセー達には怪我をしたという事だけは話してあって、素顔で出るよりもいいだろうという判断だった。

でも……体育館で飛び交っていた噂話。
あのボソボソと聞こえる音声ですら、みわには辛いものだったんだろう。

「そう思ったら……足が震えちゃって。ダメだね、こんなんじゃ」

自嘲気味にそう言うみわの手に、自分の指を絡ませた。

「ダメじゃねえって……頑張ってたっスよ、みわは」

いつも、頑張りすぎってくらい、頑張ってるでしょ。

「ホントにさ、無理だけはしないで欲しいんスけど。ちゃんと、センセー達にも体調が悪いって言えばさ」

「ありがとう、涼太。
大丈夫……高校生活最後のお仕事、見届けて、欲しい」


そう言ったみわの瞳は真っ直ぐ前を……先を見据えていた。



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