第74章 惑乱
「それで、う、ぅ……」
「みわ、少し休も。なんか、飲もうか」
自分でも驚くほど自然に出た言葉。
オレが気負ったって仕方ないし、このペースではすぐに息切れしてしまう。
冷蔵庫を開け、返事を待たずに、まだ未開封だったミネラルウォーターのフタを開けて棚の上のコップに注ぐ。
「……ありがとう」
みわはまるで、温かい飲み物の温度を下げるかのように、フゥ……と長い長い息を吐いた。
こくり、小さな喉が上下する。
目の縁は赤くなっているのに、顔色は血の気がなく、白い。
「無理して全部話さなくて、いいんスよ」
一瞬こちらを見たみわの目は不安げだったけれども、オレの表情を見て、安心したように緩んだ。
「もう、残りの話はそんなに……長くない、から」
「ん……そっか」
ベッドの上の彼女の隣に腰掛けて、その続きを促した。
……何人目かの男に犯されているうちに、抵抗されないと分かると、1人の男が、ぼんやりとしているみわの口をこじ開けて、ナイフの代わりに汚い男根を咥えさせた。
ナイフで切れた傷口を擦る痛みで、みわの意識はまた戻って来た。
そして、挿入していた男と、イラマチオをさせていた男が同時に射精したところで……喉の奥で射精されたからか、彼女は激しく嘔吐した。
「苦しくて、気付いたら吐いてた、の……」
それに驚き、自分のモノやまわりを汚された事でカッとなった男たちが、みわに激しく暴力を振るったという。
「でもね、骨は折れてなかった、みたい」
いまだに頬に貼られたガーゼの下は、見られたくない傷かアザになっているんだろう。
当然撮影などという事態ではなくなり、吐いたものは、自分で片付けさせられた。
その合間にも、容赦なく暴力は飛んできたという。
みわの顔は殴られた事によって赤く腫れ上がってしまったため、修整がきく静止画の撮影を先にする事にしたらしい。
恥部を曝し、写真撮影をされているところで……赤司っちが助けに来てくれたんだそうだ。
「もう、ね……死んでいるのと、同じだったの。あんなにひどい事をされていたのに、ココロは何にも動かなかった。多分私、あの時に死んじゃったんだと、思う」
……そんな事ない、と否定出来ない。
みわは、こころを殺された。