第74章 惑乱
飛行機の窓から見る雲と、地上に居て下から見上げる雲が同じだってこと、あんまりピンとこない。
眼下に広がる世界が、あまりに小さくて。
この中に人間が生きているなんて、なんか不思議だ。
ーーあっという間のアメリカ滞在だった。
前回行った時よりも、さらに時間が短く感じられて。
今回は、NBAやらなんやらの様々なチームのスカウトマン達が来ていた……らしい。
誰が誰だかよく分かんなかったし、オレも青峰っちも、バスケを楽しむことに集中してた。
しかし、費用まで持って貰って、オレたちってつくづく恵まれてるなあ、と思う。
爽やかな客室乗務員の声に導かれて、オレたちは日本へ帰って来た。
……乗った飛行機のパイロットが父親じゃなくて安心した。
空港で、みわの姿を探しながら、スマホの電源を入れる。
迎えに来てくれると言っていたのに、なかなか見つからない。
メッセージアプリを立ち上げようとして、画面に目をやると、ちょうどみわからの着信。
「もしもし? 帰って来たっスよ〜」
間。
わずかに、間があった。
『……おかえりなさい、涼太。ごめんね、今日、行けそうになくて』
「え?」
まさかの発言に、一瞬オレも止まってしまった。
目の前の風景には、みわがいない。
「具合でも悪いんスか? 大丈夫?」
『あっ、あの、おばあちゃんが風邪、引いちゃって。ちょっと、出られそうにないの。本当にごめんなさい』
みわの声に元気がない。
優しいみわ、お祖母さんを心配して、こころを痛めてるんだろう。
「それなら仕方ないっスね、お大事にって伝えて」
『ごめんね。本当に、ごめんね』
「気にしないでってば、誰のせいでもないっしょ」
みわに会えるのを楽しみにしての帰国だったから、正直言うと、ガッカリしてる。
でも、こればっかりはどうしようもないよな。
お祖母さんには、いつもいつもお世話になってる。
お見舞いでも持って、顔を出そう。
そう決めて、桃っちと青峰っちに別れを告げ、空港の銘店街へと足を向けた。