第19章 夏合宿 ー2日目ー
「もーみわっち……センパイにあんなサービスしちゃダメっスよ!」
「サ、サービスなんてしてないよ! 急に立ったらクラっとして……」
食堂に行くと、食事をしている部員はもう残っていなかった。
誰かが話を通してくれていたらしく、胃に優しいメニューが運ばれてくる。
「ご迷惑をお掛けし、申し訳ありません……いただきます」
「いいのよ〜、暑いから大変ね! ゆっくり召し上がれ!」
黄瀬くんの方をチラチラ見たお姉さんは嬉しそうに去っていった。
「黄瀬くんて、ほんとスゴイね……」
「ん? 何が?」
「初対面でもすぐ人を魅了しちゃうし。
語彙が乏しいけど……スゴイなあって」
「そうっスか? 見た目っていう一番分かりやすいところにつられてるだけじゃないっスかね……オレは、行動や内面で魅力的な人ヒトのがスゴイと思うっスけど」
「黄瀬くんのスゴイとこは、行動や内面も伴ってるところでしょ?」
「はは、そんな風に言ってくれるの、みわっちくらいっスよ」
「みんな思ってるよ 」
「……もうオレの話はいいっスわ。みわっち、ソースついてる」
黄瀬くんが指で私の頬を拭い、ついたソースをペロリと舐めた。
その一連の動きがあまりに滑らかで、うっかり見とれてしまうところだった。
……慣れてる。
「……黄瀬くん、って、さ……」
「ん? どうしたんスか?」
「彼女、いるの?」
「いるっスよ、みわっちが」
「そうじゃなくて……私以外に……」
「何言ってんスか。いるわけないでしょ。オレはみわっち一筋なんスよ?」
「だ、だってあんなにモテるのに、そんな訳ないじゃん……」
「ん〜、どうしたら信じて貰えるんスかね……」
「……慣れてるし……」
「え、何?」
「お、女の子とするの、慣れてるし!」
思っていたより大きな声が出てしまった。
恥ずかしい。
「……みわっち、ご飯食べたら部屋で少し話そうか」
「……え……」
「最近、ゆっくり話出来てなかったし」
寂しそうな表情に、それ以上何も言うことができない。
とても美味しかったはずの食事は、途中から味を感じることが出来なかった。
きっと、傷つけた。
勢いで、なんてこと言っちゃったんだろう。