第72章 悋気
数時間前、赤司さんの部屋で。
「緑間、神崎さん、面白そうな話をしているね」
ババ抜きを終えた赤司さんが、話をしている緑間さんと私の所へやってきた。
「赤司」
「赤司さん……」
「黄瀬の話だろう?」
その突然の発言に、思わず緑間さんと顔を見合わせた。
「聞こえて……は、いなかった筈だな。相変わらずの察しの良さが怖いのだよ。
2人が一緒に居る事について話していた」
赤司さんのこの瞳。
力のある瞳だ。
涼太の瞳とはまた異なる力を持った瞳。
出会った時は少し苦手だったけれど……今は頼もしくすら感じてしまう。
「2人が一緒に居るメリット、という事か」
「そうだ。俺には、それがあるようには思えないのだよ。
余計なお世話かもしれないが」
気づけば話が進んでいる。
……赤司さんまで、この話に巻き込んでしまった。
「まあ、メリットデメリットで判断するものではないかもしれないが……お互い、一番求めているものを満たし合える存在なんじゃないか」
一番……求めているもの?
涼太と?
私が?
それぞれに?
「鳩が豆鉄砲を食ったような顔だね、神崎さん」
「……赤司、俺も分からないのだよ」
「神崎さん、多くのものを持つ人間は、常に前を見て、更に先を求めるものだ」
「先を……」
常に前を見て、更に先を……
涼太にピッタリの言葉だ。
過去にばかり囚われている私とは正反対の、キラキラとした未来に向かっていく涼太。
「黄瀬は、自信がないんだろう」
赤司さんの口から出たその言葉は、あまりに意外すぎてなかなか耳に馴染まなかった。