第71章 笑顔
昨日はあきとあんな風に話したけれど、実は、涼太の進路はまだ、怖くて聞けていない。
でももう、そんな事も言っていられない。
「お待たせ、みわ」
「涼太、お疲れさま」
入ったのは、駅前の洋食屋。
お店の中は広くて静かで、ゆっくり話が出来る。
2人で何度も来た事のあるお店だ。
席に着いてハンバーグ定食を頼むと、涼太は「それ、好きっスね」と言って切れ長の瞳を柔らかく細めた。
私が注文したハンバーグ定食と、涼太が注文したナポリタン定食のプレートが席に運ばれてくる。
食欲を刺激する香りがテーブルに充満して、お腹がくるると鳴った。
「……涼太、先に話しておくね。
私、受けたい大学決めたんだ……」
大学名を告げると、涼太は少し目を見開いて、フォークを止めた。
「……ちょっと……遠いんス、ね」
「そうなの……」
そう、私の行きたい大学は、都内とはいえ、都心からは程遠い。
これから通う事になるであろう、マクセさんの所との距離や学校の質を考えると、その大学が一番都合がいい。
「りょ、涼太……は、決めてるの? 進路」
「うん、決めたっスよ」
「そ、そっか」
「オレ、笠松センパイの大学に行く事にした」
「え……」
「オレね、やっぱり、オレを変えてくれたあのひとのチームで、"優勝"したいんスよ。
あの時の借り……返せてないから」
涼太にとって、笠松先輩は特別だ。
腐っていた彼を叩き直し、正しい方向へ導いてくれたひと。
「……くだらないって、思った?」
「ううん、思ってない。思うはず、ないよ」
「海常高校の勝利とは、別にさ……
あのひとと勝ちたいんだ……」
そう言った涼太の瞳は、いつもの様に澄んでいて。
私が大好きな、真っ直ぐに自分のやりたいことへ向かっていく姿だった。
……アメリカ行きを告げられなくて安堵した自分がいたのは、秘密。