第71章 笑顔
いつまでも夏の余韻が残っている……
なんて思っていたら、気付けばひと雨ごとに季節はどんどん秋に近付いていて。
夏休み前に配られた進路希望の書類の提出期限は過ぎて、それぞれがこの先の道を決め始めていた。
「みわ、もう進路決めた?」
私は今日、マジバであきと、今後についての話をしていた。
あきが飲むバニラシェイクの香りが、苦い記憶を呼び起こす……。
「うん……決めたよ」
最初は、理学療法士になるため、昼間は働いて、夜間の専門学校に通おうと思っていた。
専門学校なら、成績優秀者への学費免除などの補助が多いというのも理由の1つ。
理学療法士になるだけなら、専門学校でも大学でもいいんだと思う。
就職先の幅に少し違いは出てしまうようだけれど。
でも……『人間をもっと知りたい』と強く想うようになった気持ちと共に、私が最初から抱いていた気持ち……
『涼太の、力になりたい』
涼太は、高校を卒業してもバスケットボールは続けていくと言っていた。
彼なら、日本のバスケットボール界を引っ張っていくような選手になるだろう。それは間違いない。
私も、涼太や涼太のような選手の助けになる仕事がしたいんだ。
そのためには、大学を出ていた方がその後の選択肢も広がると、先生やおばあちゃん、マクセさんにも説得されて……。
バイトやマクセさんの所でも勉強しながら、奨学金制度を利用して、大学進学をさせて貰う事に決めた。
様々な資格を取って、理学療法士としても、トレーナーとしても彼を支えられるようになりたい。
「へえ、あんたがそんなに前向きなの、珍しいじゃん」
「……私も、変わらないと」
こんな風に考えられるようになったのは、周りの皆のお陰だ。
「あきは、どうするの?」
「あたしはまだちょっと……悩んでてさ。
今月中には決めるつもり」
あきがこんなに煮え切らないのは、珍しい。
「私で良かったら、話してね。
聞くくらいしか、出来ないかもだけど……」
「ん、サンキュ。黄瀬にはもう話したの?」
「うん、少しだけ。でも、肝心の大学名はまだ言ってなくて……」