第69章 偽り
『頼むっ! 黄瀬っ!』
珍しく……というか、初めて聞いた笠松センパイの懇願。
ウィンターカップが終わった後の冬休みは、穏やかなものだ。
1年間で、唯一ゆっくり出来る時期……かもしれない。
『もしかして、どっか旅行行ったりすんのか……?』
今度は不安げな声。
もはやスピーカーの向こう側が誰だったのかを忘れてしまいそうな。
「いや、その日は暇っスけど……」
『頼む! 頼りになるヤツはオマエしかいないんだ!』
「森山センパイとか、喜びそうじゃないスか」
『アイツは家族旅行で今国内にいないんだよ。聞いたら発狂するかもしんねーけど』
「……そっスか……じゃあ」
『小堀も帰省中だ』
「センパイも帰省とか旅行とかしてる事にすれば良かったのに……」
『いや、先に予定だけを聞かれて……ハメられた。
最初から目的を聞いてたら適当にごまかしてた』
どうやら相手は笠松センパイをよーく分かっているようだ。
「……分かりました……お受けするっス」
こうして、何故かオレは笠松センパイに泣きつかれて、センパイの大学の面々が主催する合コンに参加する事になってしまった。
「笠松っ!!!」
笠松センパイとオレが集合場所に着いた途端、センパイのセンパイらしい人が笠松センパイの首根っこを掴んで陰に連れて行った。
「お前、イケメン連れてくるんじゃねーよ!
あんなの、女子全部持ってかれんだろっ!」
「いやっ、大丈夫です!
アイツ色々残念なヤツなんで!」
折角陰に連れて行っても、その音量じゃ丸聞こえだ。
センパイ、相変わらず容赦なくヒドイっスね……。
しかしこんな年始からやるもんなのか、合コン。
とも思うが、バスケ選手ならオフシーズンを考えたら大体こうなるか。
ま、テキトーにこなして終わらせよう。
夕飯はみわと食事する約束をしてる。
「大体俺、何話せばいいのか分からないんですけど……」
珍しくオロオロする笠松センパイに話しかけるチカゲサン。
「大丈夫、笠松クン! 私が前に座ってあげるから!
無理そうなら途中で抜ければいいよ、私も抜けてあげるから!」
なるほど、そういうお持ち帰り作戦っスか。
一応オレ、今日は笠松センパイのナイトなんで……そうはいかないっスけど。