第3章 人と人ならざるもの
――……なんでこいつは、いつもこういう台詞をさらっと言えるのかな……。
――あの笑顔が凄くむかつく。
心中で天邪鬼のような事を呟きながら、顔を見られないように小さく俯く。
だが、それと同時に数日前の地震と自分が見た『未来』を思い出し、顔を曇らせる。
結局のところ、途中で予知能力が切れたので、恐怖から解放されたが、そのことはシャドウには話していない。
話したら、また余計な口出しをすることはよくわかっていた。
そんなアスミの心中と表情に気付いたのか気付かないのか、シャドウはなおも話し続ける。
「まあ、妖怪の国と言っても、あなたが思っているほど物騒な国ではありませんよ。多分」
「多分がついてるけど……」
「細かい事は気にしないでください。勉強ということです」
にこやかに言ったシャドウは、立ちあがりアスミの手を取る。
「それでは行きましょうか」
▼◇▲
森の中。巨木前。
シャドウが支配している領域にある森の中心。
推定樹齢500年の巨木の前に、2人の少年と少女が立っていた。
「いつ見ても古いね……」
限界まで上を見上げて、ため息をつくアスミ。
シャドウは苦笑しながら、樹の幹に手を当てる。
「私よりは生きていませんけどね」
「いったいあんたは何才なの?」
「どうでしょう」
とぼけた笑みを返すシャドウに、アスミはまたため息をつく。
シャドウは目を閉じると、低く短い呪文を唱える。
と、同時に木が小刻み揺れ、幹に人が一人入れる大きさの穴が開く。中は暗く、覗き込んでも何も見えない。