第3章 人と人ならざるもの
「姫島さん、ちょっと極夜の国に行きましょうか」
「……は?」
吸血界。
吸血鬼と呼ばれている種族が住む世界に、一つの城が建っていた。
外観は中世ヨーロッパの城に酷似しており、それを見た人間は迷うことなく貴族や王族の住む城だと思うだろう。
――実際に住んでいる人物は、人間の予想をはるかに超える者たちばかりだが。
「何、極夜の国って」
一人の人間の少女――姫島アスミが、ソファーに座りながら、相対する少年に訝しげな目を向ける。
「妖怪の国ですよ。ちょっとした知り合いがそこに住んでいましてね。最近、結婚したという噂を聞いたから、挨拶に行こうかと」
吸血鬼の少年、ジークゼルス・シャドウはティーカップに紅茶を注ぎ入れながら、にこやかに答えを返す。
「妖怪の国? なんであたしまで行かなきゃいけないの」
「一人じゃさみしいからです」
「嘘だね」
きっぱりと断言するアスミだが、シャドウは相変わらず笑顔のまま言葉を続ける。
「それに、吸血鬼と妖精と人間以外の種族も知っておいた方がいいでしょうし」
「やだ」
「頑固な人ですねぇ……何をそんなに嫌がってるんですか?」
「……だって、絶対に面倒事に巻き込まれそうだから」
「大丈夫ですよ。何かあったら、私があなたを守ってあげますから」
恥ずかしい台詞を、真顔で言ったシャドウに、顔が火照っていくのがわかる。