第2章 序章
いったい何が起こるかはわからない。
もしかすると、何も起こらないかもしれない。
それがなおさら、彼女を不安にさせる。
「どうした、ひより」
黙ったままのひよりを案じ、柘榴が声をかける。
ひよりは、顔を上げると薄く微笑みを浮かべ、「なんでもありませんよ」と言った。
▼◇▲
同時刻。
人間界の、とある山奥に一軒の民家があった。
静かに眠り続ける草木の中に紛れ込み、自分の体を抱きしめるように座っている少年がいた。
どこか憂いを帯びているその姿は、今にも消えてしまいそうに弱々しく悲しげだ。
「……う……頭が痛い……」
「狐優?」
少年はハッと顔を上げ、呼びかけられた方へと目を向ける。
そこには、きょとんとした顔で地面から少しだけ浮いている少女の姿があった。
「……何? 用事がないんだったら、来ないでよ……」
「もう。そんなこと言わないでよ。外にいたら寒いよ?」
狐優を案じる少女――花音が、暗い顔の狐優を元気づけるように微笑みかける。
「別に……君には関係ないよ……」
「関係なくなんかないって! ほら、行こう!」
笑顔で言う花音から、狐優は無表情のまま顔をそむけると、月を見上げる。それにつられて花音も月を見つめると、その大きさと美しさに息をのむ。
「わぁ、凄く綺麗だね……」
「……嫌な感じがする……」
「え?」
じっと真剣な顔で狐優は月を見つめ続ける。
「……よくないことが……起こるかもしれない……」
そう、花音に聞こえないように、ひっそりと呟いた。