第4章 人と人ならざるもの、弐
――お願いだから。
――少しだけいいから。
――触れさせて……!
がくり、と何かが体の中で動いた。
と、同時に半透明だった右腕がはっきりとした形となる。
――できた!
右ひじから下までだが、それだけで十分だ。
花音はブレスレッドを持ち、勢いよく家の中へと入った。
▼◇▲
「持ってきたよ!」
リビングにはひよりと狐優がいた。
横たわるアスミはもう死人同然に真っ白になっている。
花音はひよりに急いでブレスレッドを渡す。
すると、またがくりと何かが体の中で動き、腕が元の半透明になっていった。
とにかく間に合った事に安堵していると、ひよりがブレスレッドをアスミの手首に取り付けた。
だが、アスミの容体は回復しない。
「これじゃないのかな……?」
不安で胸が締め付けられながら、花音が言うと、ひよりは固い表情のまま首を振った。
「いえ、恐らく瘴気の方が強いのでしょう。魔力か神気を足さなければ……」
「貸して」
ひよりの言葉を遮るようにして、狐優が低く言った。
ハッとひよりと花音は狐優を見るが、彼の目は真剣さを帯びている。
「……僕は少しだけ魔力があるから……足しになるかもしれない……」
狐優は、アスミの手首に取り付けられたブレスレッドに手を当てると目を瞑る。
しばらくその状態でいたかと思ったら、狐優の手から金色の光が僅かに放たれ、やがて収まっていった。
「これで……大丈夫だと思う……」
その言葉通り、青ざめていたアスミの頬が生気を取り戻していく。
呼吸もはっきりとしたものになり、危機は免れたようだ。