第4章 人と人ならざるもの、弐
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「アスミちゃん」
姫島アスミは裏庭に座って、山を吹き抜けていく涼しげな風を体で感じていた。
名前を呼ばれて、横を見ると満面の笑みで花音がいつの間にか座っていた。
「……何?」
「外にいたら寒いんじゃないの? 風邪ひいちゃうよ」
「……今、こんな状態で中に入れるわけないし」
「うーん……そっか……」
アスミはじっと花音を見つめる。
自分とそれほど年齢が離れているようには見えない。
とすると、最近幽霊なったのだろうか。
この歳で幽霊になったのなら、家族や友人もいたのだろう。
明るく朗らかな少女だ。家族や友人も、きっと良い人たちなんだろう。
生きているものの世界に、大切なものを置いてきてしまった花音の心情は生きているアスミにはわからない。
なぜ、自分の隣で笑顔で話しかけてきてるのかもわからない。
「……ごめん」
「え? 何が?」
思わず口をついて出た謝罪の言葉に、花音が首をかしげる。
「あんたの友達に、ひどいこと言っちゃって」
「うーん……別に私が言われたわけじゃないし。狐優に直接謝りなよ」
「……そりゃそうだよね……」
はぁ、とため息をついてアスミは頬を人差し指で引っ掻いた。
「……あのさ、妖怪とか吸血鬼とか、怖くないの?」
「んー、びっくりはしたけど、怖くはないかな」
「なんで?」
「だって、悪い人たちじゃないでしょ?」
「当たり前だよ」とでも言いたげな顔で、花音はハッキリと答える。
なんの迷いもないその言葉に、アスミはどこか拍子抜けしてしまった。
もうすでに幽霊だから、妖怪などの人外の存在を肯定できるのか。
そう考えたが、すぐに脳内から打ち消した。
きっと、この山村花音という幽霊少女は、純粋に相手の善意と優しさを感じることができるのだろう。