第4章 人と人ならざるもの、弐
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柘榴はひどく不機嫌だった。
森の中。
生い茂る木々を器用にかわし、駆け抜けていく。
柘榴は瘴気を持っているため、普通の植物は触れると枯れる。
柘榴自身は別に木が枯れようとも、花がしおれようとも気にしないが、ひよりが花や植物を好んでいるため、なんとなく触れてしまうことが躊躇われる。
ひよりの顔を思い出し、柘榴はまた小さく舌打ちをする。
せっかく愛妻であるひよりとの読書を邪魔されただけでなく、『物の怪』封印という面倒なことまでしなければならなくなり、非常に苛々とする。
半ば八つ当たりな状態で、にこにこ吸血鬼の顔を思い出し、悪態をついていると、目的である神邪洞が見えてきた。
すでに、周りの木々は枯れており、月の光だけでも荒れていることはよくわかる。
――もうここまで進んでるか……。
予想以上に瘴気の広がりが速い。
このペースだと、『物の怪』が本格的に封印を破壊するのはそう遠い事ではないだろう。
――むかつくけど、あの吸血鬼の言うとおり、早く封印しなきゃいけねぇな。
柘榴はチッと舌打ちをして、その場から離れようとする。
だが、一瞬だけ洞穴の奥に見えた、2つの赤い光にすばやく視線を洞穴へと戻す。
柘榴はだるそうに肩を回すと、その2つの赤い光を見つめる。
――ったく、面倒だな。
――もう湧きやがった。
指をバキリと鳴らし、全身を次の行動のために集中させる。
そして洞穴へと、勢いよく地面を蹴った。