第4章 人と人ならざるもの、弐
「アスミ様の事ですか?」
「あはは、察するのが速いですね。えぇ、そうです」
シャドウはひよりの隣に立ち、僅かに土が付着しているニンジンを手にする。
「彼女はまだ幼い少女だ。それゆえに、感情的にもなりやすい」
ひよりはアスミについてもシャドウについても詳しい事は知らない。だが、それなりの事情があるのだろうと、よくわかっていた。
だから、シャドウが寂しげに話し始めた時も、ただ彼の紡ぐ言葉に耳を傾けていた。
「彼女は人ならざる力を持っています。生まれつきね。それゆえに、周りからの目と評価におびえ続けてきた。周りから拒まれるのが、捨てられるのが、彼女は何よりも怖い」
シャドウは、ニンジンの上にもう片方の手を重ねる。
「先ほど、狐優君に辛く当たってしまったのは、彼の本心を無意識のうちに見抜いたからでしょうね。ですが、まだ己の未熟さゆえに感情的にぶつかってしまった」
シャドウがニンジンから手をのけると、ニンジンは同じ厚さに統一されたいちょう切りになっていた。ひよりは米を洗い終わると、一度その手を止めた。
「シャドウ様は、アスミ様がお好きなんですね」
「まあ、そうですね」
「今回の事も、アスミ様のためなんですね?」
「えぇ。――この森のある町から少し行ったところに、アスミさんの住んでいる町があります。もしも、本格的に『物の怪』が暴れたら、確実に彼女のところまで被害は及ぶでしょう。私はそれを防ぎたい」
シャドウはニンジンをボウルの中に入れると、ひよりに向かって頭を下げた。
「その件について、あなたには暴力をふるってしまい、大変申し訳ありません。どうぞお許しください」
「そんなに固くならないで。何か事情があることは、察していましたし」
「柘榴さんをかなり怒らせてしまったようですが……」
「そのことは、また私が柘榴様に直接説明しておきます」
聡明さを感じさせる笑みを浮かべて、ひよりが丁寧に言葉を返す。
「ありがとうございます」
「あの、シャドウ様」
台所から出て行こうとしたシャドウをひよりが呼びとめる。
シャドウが首をかしげてふりかえると、ひよりは弱ったような顔で、炊飯器を指で示した。
「これは、どう使うのですか?」