第4章 人と人ならざるもの、弐
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取り残されたシャドウたちを、重い空気が支配した。
いつのまにか起きていた柘榴が、呆れたように首を振っている。その空気を打ち消したのは、ひよりだった。
「さて、食事でも作りましょうかね」
にこやかに微笑んで、立ち上がる。
ひよりはシャドウを見下ろすと、「何か食べたいものはありますか?」と尋ねた。
「私は特に希望はありませんよ。あ、食材なら用意しますけど」
「それはありがとうございます。――柘榴様は?」
「俺はひよりの作ったもんなら、なんでも食う」
「さようですか……狐優様は……あら、どこに行かれたのでしょうか?」
気付くと、狐優の姿がない。
部屋を静かに出て行ったらしい。柘榴がつまらなさそうに首を回した。
「ま、あいつなんてほっとけ。あのアスミとかいうガキもな」
「柘榴様、それは失礼ですよ」
ひよりが苦笑するが、柘榴は眠たそうに欠伸をするだけだ。
「ちょっと、俺も外に出てく」
「どちらに行かれるのですか?」
「周りの様子見だよ。夕飯までに帰ってくる」
「お気をつけて。――では、私も夕食の準備をしてきますか。台所を使わせていただきますね」
柘榴が伸びをしながら外に出ていき、ひよりも台所へと向かうと、室内にはシャドウと花音だけになる。
「……ね、シャドウ君」
「なんでしょうか?」
「あの……アスミちゃん、どうしたの……? あんなに怒って……って、初対面の私が言うことじゃないのかもしれないけど」
シャドウは、目の前に下りてきた少女の瞳に、混じりけのない、純粋にアスミを心配する想いが表れているのを見て、優しく微笑んだ。
「あなたはとても優しいのですね。……そうですね、姫島さんはいろいろ過去に辛いことがありましたからね。きっと、狐優さんの言った『嫌い』という単語に、過去の自分を重ねてしまったのでは」
「……そっか」
「花音さん」
改めたように言うシャドウの言葉に、花音は「何?」と首をかしげた。