第4章 人と人ならざるもの、弐
ふと外を見ると、いつの間にか太陽が沈みかかっていた。アスミは立ち上がると、部屋の電気を付ける。
人工的な明るさの中、今までずっと黙っていた狐優が口を開いた。
「……それで……用件は何……?」
「数日間、こちらに泊まらせて下さい。神邪洞をもう一度封印するまでの間です。礼はします」
「……やだ……」
「そう言わずに」
シャドウが困ったように眉根を下げるが、口元は微笑みを浮かべている。アスミは呆れながら会話を聞くしかない。
――相変わらず強引だなー……。
無意識のうちに手首に付けたブレスレッドに触れてしまう。付けてると、どこか安心する、不思議なブレスレッド。
そっと目を伏せた時、狐優の暗い声に意識をそちらへと持っていかれた。
「……僕は人間が嫌いなんだ……それにうるさいのも……」
「うるさいのはともかく、なぜ人間まで?」
「……だって、人間は妖怪を見てそれだけで、嫌うだろ……」
苦しげに紡がれたその言葉に、アスミの心臓が凍りつく。
花音が、悲しそうな顔で狐優を見つめる。そんな彼女の様子にまた、アスミの体が強張った。
「人間にも、妖怪と触れ合っている人がいますよ。現に、ひよりさんなんて妖怪と結婚していますし」
シャドウがなだめるように、優しく言うが狐優の言葉は止まらない。
「……嫌だ……どうせ、人間はいつも騙すんだろう……? 優しいふりして……君らだって、騙されてるかもしれないよ……」
「あんたさ、いい加減にしてよ」
気付いたら、アスミの口から鋭い言葉が出ていた。
狐優が目を上げ、アスミを警戒するように見詰める。アスミはハッとして後悔するも、口が動き続ける。