第4章 人と人ならざるもの、弐
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神邪洞とは、悪鬼である『物の怪』が封印されている洞穴だとシャドウは説明した。
今から200年ほど前――日本では江戸時代後期――に突如現れ、人間や人間界に住んでいた普通の妖怪を苦しめていた。
やがて、別次元にあるシャドウの住んでいる吸血界、柘榴の住んでいる極夜の国、ひよりの出身国である白夜の国にも攻撃をしてきた。
物の怪からは、非常に強い瘴気が発せられ、触れただけで周辺の木々は枯れ、小動物は死に絶える。
すぐさま危険を感じたシャドウと柘榴は、お互いの存在を知らなかったが、そのときを機に手を組み、物の怪を封印した。
「まあ、そう簡単に破られるような封印じゃないんですけどね」
そう明るく言ったシャドウ。
隅に座っている狐優が、小さくため息をつく。
アスミもため息をつきたかった。
すでに、お互いの名前と種族は把握しているが、一つの部屋に人間、吸血鬼、幽霊、妖怪といるのは慣れない。
幽霊である花音は、首をかしげて一つの疑問を口にした。
「そう簡単に破れないって……じゃあ、どうして、今破れちゃったの?」
「数日前から、月が赤かったのに気付きましたか? 200年前の『物の怪』騒動のせいで、一定の周期で月が魔力を帯びるんです。その月の魔力を浴び続けると、封印の力が弱まってしまいます。
恐らく、それを狙って『物の怪』も動き出したんでしょうね。そして、この前あった地震、あれも封印がとかれてしまった一つの理由でしょうね」
笑いながら答え続けるシャドウ。
アスミは数日前の地震の事を思い出して、あのせいか、と納得する。だが、シャドウの笑顔を見て、言いようのない不安を感じた。
「いや、笑い事じゃないからね? ものすごく危険じゃん」
「大丈夫ですよ、姫島さん。しばらく封印されていたので、すぐには『物の怪』も動けないでしょうし」
「でも、危険でしょ」
「だから、ここに来たんです。柘榴さんは瘴気が強いので、『物の怪』相手にも耐えられますし、万が一『物の怪』が暴れても抑えてくれますから。
……まあ、彼は封印術はさっぱりですけどね」
アスミが柘榴のほうをちらりと見ると、柘榴は腕と脚を組み、壁にもたれて居眠りしていた。
隣にいるひよりが、心配そうにアスミ達を見ている。そんなひよりに、アスミはなんだか申し訳なくなってきた。