第4章 人と人ならざるもの、弐
「……普通の家な感じがするけど……」
ぶつぶつ言いながら、無機質な冷たさの壁に手を当てる。
ひんやりとした冷たさに、思わず小さく息をのんだ。
だが、都会で感じるコンクリートとは違い、涼しさを感じる冷たさに、何気なく額を壁に合わせてみる。
「ね、こん……でなくて……大丈……」
突然、家の中から聞こえてきた声。
ハッと目を見開き、壁から頭を離す。
きょろきょろと周りを見るが、人影はない。
もう一度――今度は耳を壁へと当ててみる。
「……絶対に、出ちゃダメ……」
「でも、さっきから何度も、ピンポンピンポンいってるよ?」
「……ダメ……」
「えー」
2人の人物の声だ。
はっきりとは聞こえないが、会話を聴きとるには十分だ。
アスミはそっと足音を立てずに、その場から離れた。
「シャドウ、家の中に誰かいるよ」
「本当ですか?」
「うん。話し声が聞こえてきた」
「じゃあ、居留守を使ってるんですねー」
シャドウがため息をついて、玄関の引き戸を開ける。
ふわっと舞い上がるほこり。
その後ろからアスミは家の中をのぞきこむと、廊下の隅で何かが動いた。
「……!?」
ぱちりと目があった。最初にアスミが見た、あの少女。驚いた顔で、じっとアスミを見つめ返している。
「えっ……ちょ……!?」
シャドウの服の裾を引っ張るが、視線は先ほどの少女から離す事ができない。
よく見ると、足元が床から僅かに浮いているし、体もはっきりとではないが半透明だ。
アスミが息をのんだので、シャドウもつられて彼女の目線の先へと目を向ける。
灰色の瞳が半透明の少女を捉えると、その口元に優しい微笑みを浮かべた。
「これは……初めまして。こちらに住んでいる方でしょうか?」
「え、はい……。あの……どちら様ですか?」
「ジークゼルス・シャドウという者です。以後お見知りおきを。――少々、尋ねたいことがありまして」
シャドウの穏やかな対応に目の前の少女から、僅かに警戒の色が抜ける。
「えっと……私は山村花音です。宜しくお願いします!」
にっこりと笑ってお辞儀をする花音。シャドウは笑顔を崩さないまま、言葉をつづけた。