第4章 人と人ならざるもの、弐
いつ首を絞められてもおかしくない状態だというのに、シャドウは余裕の笑みを浮かべている。
柘榴の殺気がまた膨れ上がったような気がした。
どうにかしなければ、本当に殺されてしまうんじゃないかと、激しく焦りを覚え始めるアスミだが、どうすればいいのかわからない。
すると、今まで眉根を下げて弱ったような顔をしていたひよりが、胸に手を当て小さくため息をついた。
「柘榴様?」
「……どうした、ひより」
先ほどシャドウに対してはなった声よりも、ずっとやわらかく優しい声で、柘榴が尋ね返す。
ひよりは、どこか神妙な顔で言葉を続ける。
「それ以上、シャドウ様に嫌な思いをさせるようでしたら、私は柘榴様のことを嫌いになってしまうかもしれませんよ?」
「――!?」
ぎくりと、明らかに柘榴の顔に動揺の色がはしる。
「私は柘榴様のご友人が苦しんでいるのも、柘榴様がそのようなことをしているのも見たくありません」
「……わかった」
一言呟き、あっさりとシャドウを解放する柘榴。
アスミはその数分のできごとを、唖然と見ているしかない。
――え、こんなにあっさり……!?
――いや、特に大きい問題に発展しなくてよかったけどさ……。
――この柘榴って妖怪、怖いのか優しいのかわからない……。
いろんな意味で恐怖と疑問を感じていると、シャドウが服のしわを伸ばしながら、アスミに尋ねかける。
「それで、姫島さん。いったい何を慌てて帰ってきたんです」
「え……」
そこで自分が見た民家と少女のことを思い出す。
だが、そのことを話そうとするが、躊躇いが心中に生じ口を閉じてしまう。