第3章 人と人ならざるもの
その様子に、思わず引きつった顔になるアスミ。
――この妖怪……悪い奴じゃなさそうだけど……。
――でも、なんか凄い違和感が……。
あまりにも慣れない状況に、半ば意識が遠のきかける。
だが、ふと耳に入ってきた会話に、一気に意識が覚醒した。
「んで? 結婚祝いを言いに来ただけじゃねぇだろ?」
「えぇ。ちょっとばかり、尋ねたいことがありましてね」
「面倒だな」
「神邪洞のことはご存知で? まあ、妖怪をつかさどるあなたならご存知でしょうがね」
「あ? あの面白くもない穴がどうしたんだよ」
「どうやら、封印が解けてしまったようで……」
困ったように笑うシャドウ。
目の前に座る柘榴の手の中で、湯のみがガシャリ、と割れた。
中身は入っていなかったのか、その手から液体はこぼれ落ちない。
明らかに、柘榴は動揺していた。彼からにじみ出る苛立ちのオーラに、アスミは体を硬直させる。
「まあ……」
先ほどの朗らかな雰囲気から一転し、ひよりが顔を曇らせ、口元を手で覆う。
かなりやばい状況だと推測できるが、なんのことかさっぱりアスミにはわからない。
自分だけ置いてけぼりを食らって、不満を覚えるが、それを口に出せる雰囲気ではないし、そこまで空気を読めないほどバカでもない。
「で、俺にどうしろってんだ」
「封印をもう一度かける手伝いをしてほしいんです」
「やだね。面倒だし」
「そう言わずに……直接封印をかけるのは私がやりますから、あなたは物の怪を抑えておいてくださいよ」
「俺だけ大変な役じゃねぇか」
「封印術は私のほうが上ですし、それだって楽な話ではありません。それに、早めに対処しないと、あなたのほうにも迷惑がかかるのでは?」
さらりと言葉を続けるシャドウに、柘榴は渋い表情を見せる。