第3章 人と人ならざるもの
▼◇▲
――何この状況。
体を強張らせながら、隣に座るシャドウを小さく睨む。
――やっぱりろくでもないじゃん、この状況。
姫島アスミは、『一般的』な人生を自分が歩んでいるとは、一欠けらも思っていない。
生まれつき予知能力があるだけではなくて、ほぼ全身から氷と炎の2種類を出せる人間なんて、そういないだろう。
そのためか、ある程度の『非日常』的な状況には慣れているはずだった。
だが、それでも今の状況を脳が処理しきれていないことを、意識の片隅で感じていた。
「それにしても、ひよりさんはとても素敵な女性ですね。柘榴さんみたいな妖怪にはもったいないですよ」
「ひよりを褒められるのは嬉しいけど、なんかむかつくな。――手ぇ出すなよ?」
「何言ってるんです、柘榴さん。私にはもう心に決めた女性がいるんです。そんな不純な事をするわけないじゃないですか。それに、ひよりさんは神気をまとっていますから、私が近づくと拒否反応が出ますし」
のらりくらりと饒舌に話し続けるシャドウに、アスミは恥ずかしさを隠しきれない。
――心に決めた女性って……。
――さらりと言ってくれるな、この吸血鬼。
「ご気分でも悪いのですか……?」
ふと不安そうな声をかけられ、ハッと顔を上げると、小さく首をかしげているひよりと目があった。
「あっ……い、いや……。大丈夫です……」
「そうですか。……もしかして、お菓子が口に合いませんでしたか? 今日は少し失敗してしまい……」
眉根を寄せているひよりの目は、アスミの前に置いてある和菓子に向けられる。
「そ、そんなことないですよ。凄く美味しいです。あんまり、和菓子とか食べないから、凄く新鮮だし……」
「ひよりの作ったもんは失敗しても美味いからな」
「それならいいんですけれど……」
「柘榴さん。それ、聞きようによってはものすごく失礼ですよ」
「うっせーな!」
チッと苛々とした舌打ちする柘榴だが、ひよりが「そう言ってくださり、嬉しいです」と唇を綻ばせると、同様に頬を緩めた。