第3章 人と人ならざるもの
「あー、あの吸血鬼の」
「やっと思い出してくれましたか。えぇ、吸血鬼のジークゼルス・シャドウです。……まあ、もう数百年は会ってませんからね、忘れていても仕方ありませんよね」
「顔はなんも変わってねーな」
「それは中身は変わったってことですか?」
くつくつとシャドウが肩を揺らして笑う。
だが、後ろにいる少女の顔は引きつり、青ざめている。
柘榴はため息をついて、ごきり、と肩を回した。
「派手な挨拶をしてくれたようじゃねぇか」
「それはこっちの台詞ですよ。部下の教育がなっていないようで。で、用件ですが……」
「仕方ねぇだろ。俺の担当じゃねぇし。――赤嶺」
シャドウの言葉を遮り、だるそうに言った。
後半は、後ろに控えている赤嶺へと低く呟く。赤嶺の眉がぴくりと動き、「なんだ?」と返事を返す。
「手ぇ出すんじゃねぇぞ」
「あー、はいはい」
呆れたように肩をすくめる赤嶺。
柘榴は少年の方へと向き直り、首を回す。
「――とにかく。……うちの庭を荒らしてくれたケリ、ちゃんと付けてくれるんだろ?」
▼◇▲
その一言ともに、玄関前に立っていた柘榴の姿が消える。
実際に消えたわけではなく、高速で動いただけなのだが、あまりにも速く、目がついていかない。
「!」
突如目の前に現れた柘榴に、シャドウが息をのむ。
反射的に後ろのアスミを横へ突き飛ばすが、柘榴からの一撃をまともに食らってしまった。
「ッ……!」
肺から一気に空気が抜けだし、後ろへ吹き飛ばされる。
予想以上の痛みに、視界が白くなりかける。
だが、再び鋭い一撃が放たれそうになるのを感じ、全身を霧へと変化させた。
刹那、柘榴の蹴りが、ついさっきまでシャドウがいた場所へと叩き込まれる。