第3章 人と人ならざるもの
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「ひより、何やってんだ」
「あぁ、柘榴様」
屋敷内のとある廊下にて、2人の男女が話しあっていた。
ひよりと呼ばれた人間の女は、振り返り手に持っていた書物を、夫であり妖怪王の柘榴に見せる。
厚さは7センチほどの分厚く重たい本を持ちながら、ひよりは優しく答える。
「時間が余りましたので、読書でもしようかと思って、お部屋に本を持っていくところです」
「なんの本だ?」
「白夜の国の歴史を記録してあるものです」
自分の生まれ育った国の歴史書を持ちなおし、ひよりは「柘榴様もお読みになられますか?」と尋ねた。
「いや、俺はいい。そういう本を読むと、頭が痛くなる」
「そうなのですか?」
「あぁ。あんまし、本を読んだことねぇからな」
「読書もいいものですよ。新しい知識も身につきますし」
「そうか? ひよりがそう言うなら、俺も読んでみるか」
あっさりと答える柘榴に、ひよりはクスクスと小さく笑う。
持った本がずり落ちそうになって、持ちなおすと、ひょいと上から抜き取られた。
「そんなに重いんだったら、俺が持つ」
「でも、重たいですよ?」
「こんなの重たいうちに入んねぇよ。気にすんなって」
「そうですか……ありがとうございます」
控えめにひよりが微笑んだ時、遠慮なしに廊下に響く男の声。