第1章 BLUERAIN
しばらく考えた後に彼が口を開いた。
「わーったよ、今から電話すりゃいいんだろ?」
「ダメだよ。こういうことはちゃんと直接謝らなきゃ」
彼は不満気な表情を浮かべるが、本当はわかっているのだろう、溜息を一つこぼして自分に言い聞かせるように言った。
「しょーがねーから謝りに行ってくらぁ」
「そうそう、サッサと土下座してらっしゃい」
からかうようにそう言うと、彼は本当に嫌そうな顔をした。
「誰がするかよそんなもん」
そう言ってハムエッグを一口で食べると、彼は席を立つ。何か吹っ切れたような表情をしている彼に安心している自分がいる。もう大丈夫だね。
「いってらっしゃい」
「おう」
そのまま彼は玄関へと向かった。靴を履こうとしてふとこちらを振り向く。
「晩飯はハンバーグな。デカいヤツ」
「は?」
ちょっと待って、それって今日も泊まるってこと⁉︎私、明日は朝から予定がみっちり詰まってるんだけど⁉︎
「寝かさねーから覚悟しとけよ」
いたずらっ子のように笑いながら靴を履き、玄関のドアを開ける彼。私は無事に明日を迎えられるだろうか。
「ありがとな」
小さくそうつぶやいて彼は私の部屋から出ていった。
「……買い物行かなきゃ……」
テーブルの上に残った食器を眺めながらふと口から出た言葉に苦笑する。私ってば本当に彼のことが好きなんだ。ワガママで気紛れでオレ様で淋しがりやで繊細な年下の恋人。その不器用な愛情表現に応えるべく特大ハンバーグを作って待っていよう。彼が呆れるほどの愛情を込めて。
雨はいつの間にか上がっていた。