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FFVII いばらの涙 邂逅譚

第8章 Sell my soul


 彼は人の罪までも背負おうとしていた。
不必要なほどに自分を責めて、それで誰かが楽になるならそれで良いと。

「ヴィンセント……そんなこと言わないで。私にとっては、あなたが生きていてくれることが至上の幸福よ」

ヴィンセントは視線を逸らす。

「ねぇ、あまり自分を責めないで。一人で背負わなければならない罪なんて、無いわ」
「シャロン……私は……苦しみたいのだと思う……。……苦しむことで、少し許されたように錯覚しているのだろう……」
「ヴィンセント……」

エゴでしかないその罪が彼の荷を軽くしている。彼女が暖かいと思っていた革手袋は急に冷たく感じられ、彼が次第に離れていく気がした。
シャロンは悔しかった。背負いきれない罪を抱え苦しむ彼に赦しを与え、解放してあげられるのはルクレツィアしかいないのだという事実が。

「それでもあなたを一人にしたくないよ」

シャロンは、ヴィンセントの手をとり、胸の前で握りしめる。
ヴィンセントはされるがままに任せ、彼女の薄く色付いた頰を見つめながら鼓動が少し早くなるのを感じた。

「一人で全てを抱え込もうなんて思わないで。苦しい時は私を思い出してほしい。気休めでも構わないから……」
「シャロン……」

愛しいという思いが、彼を罪の連鎖から意識を遠ざける。
彼女と向き合っている間だけは、脈打つ鼓動を感じられた。
彼女と共にいることで初めて自覚する。”生きている”感覚を。

「君が側にいて、こうして微笑みかけるだけで、不思議と赦されたような気持ちになる……。自分だけが幸せになるなど、許されるはずはないのにな」
「いいの、ヴィンセント。あなたは神様じゃない。人は罪を犯しながら生きていく。そしてそれを忘れないために、繰り返さないために懺悔する。人はそうやって学んでいく生き物だと思うから」
「君は……本当に不思議な女性だな……」

見つめ合い、微笑み合う。しかしその間でシャロンの頭には、彼の言った『自分"だけ"が』というそのフレーズが何度となく繰り返された。
彼女は気付き始めていた。彼を解放するには、まずルクレツィアを解放しなくてはならないのだということに。

「……ヴィンセント、覚えていて。あなたの側には、あなたを赦すためならなんだってできる女がいることを」

風が静かに彼女の髪をさらった。
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