第8章 Sell my soul
クラウドの肩に手が添えられる。その手を辿ると、肩越しに毛先で一つに束ねた長い黒髪が揺れた。今クラウドの心に寄り添えるのはティファだけだった。
「ねぇ、今は少し待ってあげたい」
「……私達がこうしている間にも事は進んでいる……」
「うん、だから……みんなは先に……」
そう言いつつティファはヴィンセントに耳打ちする。
「彼女だって、今にも泣きそうな顔してる。このまま一緒にいてもお互いのためにならないんじゃないかな? ヴィンセント、もっと女の子の気持ちをわかってあげなくちゃ」
ヴィンセントが反射的にシャロンの顔を見ると、彼女のほうもそれに気付いてぱっと振り向く。眉尻を下げたまま無理に笑顔を作り、申し訳なさそうに『ごめんね』と言葉に出さず口を動かした。
そんな姿を見て彼は初めて思慮不足に気づき彼女の肩を抱き寄せ、ポンポンと頭を優しく撫でてやる。
それだけで彼女は緊張の糸が解けていく。少し安心したように頰を染め、墓穴を掘らないように口数を減らしヴィンセントに任せる事にした。
「だから、それがいけないんだってば……」
人目もはばからずいちゃつく二人にティファが小さく呟くと、クラウドが立ち上がり青い瞳を前に向けた。
「大丈夫だ、ティファ……俺も行く」
メンバー達が心配そうにクラウドを囲む。
「なぁ、クラウド、別にもう一日位……」
「心配かけたな。もう大丈夫だ。シャロン……戦えるのか?」
「あっ……うん。装備も整えてきたからすぐにでも」
「いや、戦えるのは知ってる。つまり、セフィロスと戦えるのかってことが聞きたいんだ」
戦いはリアルだ。何が起こるかわからない。もしも隙があったり、シャロンが一人残ったりした時には、セフィロスをその手にかけなければならない。クラウドの疑問は、彼女にそんなことができるのだろうか?というものだった。
しかし、シャロンは眉ひとつ動かさずに
「できる」
と即答した。
「本当にわかってるんだよな?」
「クラウド、私にとってこの戦いは、セフィロスに救いを与える戦いでもあるの……。彼の魂を、この星に還すための」
「本気……なんだよな」
シャロンが頷く。クラウドは、その先の言葉をうまく言い出せずに沈黙したが、ヴィンセントが彼女を紹介することで流れを作った。