第7章 Blame
嫌な予感がして急いで声の上がった所へ向かう。
そこには小高くせり上がった崖の上から海面を見下ろす男がいた。男の足元から荊を絡ませ、気付かれないように静かに近付く。男が体の異変に気付き暴れ出すので、後ろからそっと耳元に囁く。
「おまえは何者?」
「くっ! なんだお前は! 花の民……か? よくも兄を!」
「触らないで。今何を見ていたの?」
「その前にこれを解け!」
男が暴れるほどに荊が身体を傷付けていく。私の荊棘が男の身体に負荷を与え、地に縫い付けていくのを私はただ冷たく見下ろしていた。
崖から海面を見渡すと、一面暗闇に染まり、色も形も判別出来なかった。
荊の魔法で海の中を探すのは簡単だが、彼が見つかったとしたらその身体を傷付けてしまう。
私はすぐに海へ飛び込んだ。
どこをどう探したのか完全には覚えていない。
魔法で光を焚いて、ただ我武者羅に泳いだ。目の前に薄すらと赤い線が見えて、それが彼の血液だと気付いたのは、彼の身体に手が触れた時だった。
意識を失った彼の体は重たく苦労したが、なんとか陸に上がり、手の震えを抑えながら必死に応急処置を施した。服の裾を千切った布で肩の傷を縛り止血してから、心臓マッサージを繰り返す。
涙が一人でに溢れ出て視界を塞ぐけれど、私は先を見続けた。
絶対に諦めない。お願い、目を覚まして。
何度目かの人工呼吸で、彼の身体が反応を起こした。
「う……」
「ヴィンセント! しっかり! ヴィンセント!」
何度も名前を呼びかけているうち、彼の瞳が開いた。
彼の瞳に私の姿が映る。それがどんなに嬉しい事なのか、この時私ははっきりと認識するようになった。
「よかった……ヴィンセント」
「シャロン……」
辛そうに名前を呼ぶので、その手をとって両手に包む。温めるように擦り合わせていると、彼が小さな声で呟くので、彼の口元に耳を近づけ聞き取ろうとする。
すると、彼の腕が背中に回り、私の体を抱き締めた。
「ありがとう……君が……助けてくれたのだな……」
「ううん。当然の事よ」
「君は……無事だったようだ……」
「ええ。あなたのお陰で……。ごめんね、ヴィンセント。私のせいで……」
「君のせいではない……。君が無事で……本当によかった」