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FFVII いばらの涙 邂逅譚

第1章 Coming Closer


 彼女はぽつりと言葉を反芻する。

「居場所……」
「ああ……。君は、ここにいるべきではない……」
「だけど、わたしがいなければ、代わりの誰かが……」

 彼女の言葉には優しさと諦めが共存した。毎日神羅が彼女に用意する文献には、神羅の絶対的な強さを植え付ける情報が入り混じり、シャロンの中に神羅からは逃れられないという刷り込みも行われているのだから。

「シャロン、その心配はない。おそらく、君の代役は誰にも務まらないのでな」
「だけど私……記憶がないから……。ここを出ても、居場所なんて……」
「心配するな、居場所は私が作る……」
「ヴィンセント……。優しいんですね。でも、いけないわ。もう私には、関わらないでください……」

 消極的にそう返すと、彼女を真っ直ぐ見つめるヴィンセントの赤い瞳の瞳孔が開く。
拒絶の言葉は彼女の本意ではなかったが、こうしなければならなかった。これまで彼女に関わる人は皆不幸な道を歩んできた。おそらく彼とて例外ではないだろう。
シャロンは心を閉ざすように卒のない微笑を残した。
 ヴィンセントはシャロンに距離を置かれることがひどく辛く思えた。鳴り止まない鼓動。彼はコントロールできない自分の潜在意識に気付き始めていた。自分の気持ちに気づいてしまえばそれはただ真っ直ぐ一途に相手へ向けられる。しかしルクレツィアへの気持ちも偽りではない。愛情の多様性に彼は苦悩する。

「私を嫌いになってくれてもかまわない。私が一方的にすることだ。それもいけないことか?」

シャロンはどう答えるべきか迷うように目を泳がせ、俯いてしまう。そしてこくりと頷いた。そのまま目を合わせずじっとしているうちに、ヴィンセントが動くのを感じた。

「わかった。暫くここへ来るのは差し控える……。どうやら私にも時間が必要らしい……。邪魔したな」

 そう言い残してヴィンセントは去った。
ヴィンセントの足音が鳴ると同時に、シャロンの手に雫が落ちる。
彼女はその時自分が思い当たる中で初めての涙を流した。
 そして初めて胸が苦しいという状況を理解する。実験後の物理的な苦しみとは完全に別のものだが、確かに苦しみを感じた。その場で呆然と座り込んだまま、涙が流れる感覚を記憶の中に刻むように目を閉じた。
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