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FFVII いばらの涙 邂逅譚

第7章 Blame


 陽が沈む。
同じ時間、変わらぬ習慣。だけどこの日頰を撫でる風はいつもとどこか違っていた。
保存の儀式まであと二月ほど。花の一族はもうすぐ途絶える。心臓の乱獲で数が減ってしまった花の一族は著しく高齢化していた。魔力を秘めた直系一族の姫である私は他の種族と交わることは禁忌とされていたため、実質最後の世代だ。
このまま静かに終わりを待つならば、いつか一族の生き残りが私を見つけ、再び繁栄することに賭け、一族は私のタネを後世に残す保存の儀式を行うことにした。

 残り二月。肉体を程度良く保存するため衣装は締め付けの少ない純白のドレスが用意され、食事は木の実に制限された。瑞々しく実る果実に手を伸ばしそうになるが、まだ自制できた。

 そんな頃だったから。どこからか魚の焼ける匂いが漂い、生唾を飲む。
辺りを見渡すと、森の奥で狼煙が上がっていた。
普段は人気のない穏やかな水辺であるから、外部の人間だろう。私は確認のため狼煙の上がる方角へ歩を進める。

 鬱蒼と茂る木々をかき分けて進むと、親子らしき二人の人物がいた。火をおこし煙を仰ぐ白衣の男性と、近くで薪を拾う若い男。全身黒に身を包んで、ミステリアスな雰囲気が印象的だった。
やけに大荷物だ。捕獲者や遭難者ではなさそうだ。とすれば、何かの調査員か。
この辺りに人がやってくるのは本当に希なことだ。もうすぐ眠りにつくというのに、最後の最後に何かありそうな予感がした。

 満月の夜が儀式の日だ。
当日まで私は集落の奥地の小屋で一人過ごすことになっているから、暇を持て余したまま今日も湖のほとりで月に祈る。
頭の片隅に、今日の旅行客の顔が浮かんだ。遠くてはっきりとはわからなかったが、初めて見る人種のような気がして興味深かったのだ。

(ああ、いけない。)

煩悩をかき消すように頭を横に振り、家へ戻ろうと振り返った時、木陰に人の気配を感じた。
誰? 声をかけると、一歩前へ進み出る。月明かりに照らされて、浮かんだ姿に息を飲む。闇夜に紛れる黒衣に、鋭く光る真紅の瞳。目が離せなくなった私は、吸い寄せられるように少しずつ彼に近づく。

「あの……、すまない。あまりに……美しかったもので……」
「えっ?」

 心が跳ね上がる。
照れくさそうにする彼のギャップが私の懐疑心を溶かしていき、私は頰を赤く染め俯いていると、彼もぎこちなく俯くように視線を逸らした。
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