第4章 砂時計
喉を締めつけられて、ふわりとした感覚が彼女を襲い始めた頃、セフィロスが彼女の鼻先に自分の鼻先をつけ、唇を奪おうとする。
「や……」
小さく顔を逸らして反抗しようとするが、そうすればセフィロスが首を掴む手に力を込め、余計に苦しくなるだけだった。加減されていた締め付けが強くなると息ができなくなり、彼に助けを求めようと目を合わせる。しかしそれは彼女を落とす罠だった。ブルーの瞳が冷たく突き刺さり、彼女は身動きがとれなくなる。
「お前も俺を拒絶するのか?」
全身が凍りつくような感覚に震える。彼の孤独に気付いてしまった彼女は、もはや強く抵抗することができなくなっていた。セフィロスが喉元を抑えていた手を離し、掌を身体に滑らせながらシャロンを妖しく見つめると、シャロンもセフィロスを真っ直ぐ見つめていた。その瞳の色は恐怖や絶望ではなく、苦しみと悔しさに染まっていた。
「私はあなたを知っているの……。あなたが生まれる前から……。ごめんね、セフィロス……。私が……もっと強かったら、勇気があれば……あなたがそんな風に苦しむことはなかったかもしれない……」
シャロンがセフィロスの身体を引き寄せ、抱き締めた。シャロンの肩が震え、声なき声と時折鼻水をすする音が響く。
「同情か……やめてくれ。……俺が欲しいのはそんな感情じゃない」
シャロンの髪を軽く撫でる。愛しげにそうする手つきに彼女の胸は締め付けられた。
触れ合った胸から伝わる鼓動は早く、彼の動揺と熱を感じさせた。
「あなたの心が休まるなら……いいよ……」
ふいに放たれた言葉に驚き彼が体を離すと、瞳一杯に溜まった涙が目に入る。
「同情はやめてくれと言ったはずだ」
「同情、なのかな……」
「俺を愛しているわけじゃない」
「……」
答えられない彼女にセフィロスはため息をつき、体を起こすとシャロンの体をなぞり、みぞおちに衝撃を与えた。簡単な魔法だったが、シャロンの細い体にダメージを与えるには充分だった。
「やっぱり……私が憎……い?」
「いや……全てが憎い」
冷たい視線でシャロンを見下ろし、身体を横に向かせると、額にキスを落として本棚の方へ歩いて行く。
唇の隙間から血が流れ、ぼやける視界の中で彼を目で追いながら、内臓にダメージを負った彼女はとうとう意識を手放した。