• テキストサイズ

FFVII いばらの涙 邂逅譚

第1章 Coming Closer


 覚えているか? 唐突に問われたその一言で、シャロンの表情はまた堅く強張る。
返答に困った彼女の様子を見て、男は取り繕うように言葉を発した。

「……いや、いいんだ……。私は、ヴィンセント……。ヴィンセント・ヴァレンタインだ」
「ヴィン……セント……」

シャロンは顎に指先を触れ思考を巡らせるが、何も思い出せない。しかし彼を見れば何かを期待するようにシャロンを真っ直ぐ見つめている。それでもやはり彼女は応えることはできなかった。表情には出さないが、ヴィンセントの瞳はどこか寂しげな色を帯びた。
自分はもしかして何かとてつもなく重大な記憶を失っているのか。そう認識すると途方も無い暗闇が彼女を襲う。

 明くる朝。再び例の男が現れた。
世話人が声をかけたので、シャロンもすぐ彼が来た事に気付く。

「今日はタークスさん一人か?」
「ああ。……お前達は知っているか? この女性が誰なのか」

朝から騒々しいなと、シャロンは扉に近付く。

「どういう意味だ? 詮索好きのタークスさん。あんたはルクレツィア博士の護衛が仕事のはずだろ」
「悪いが……彼女とは因縁がある。仕事よりも、大切な……」
「一体何の騒ぎ?」

言い争いが勃発しそうになったところで女性の声が制する。

「……ルクレツィア。貴女も当然知っているのだろう。彼女のこと……」
「調べたの」

ヴィンセントの護衛対象、ルクレツィアである。
目を伏せるルクレツィアに苛立ちを感じたヴィンセントは、彼女に食いかかった。

「後ろめたい気持ちがあるのか? ……貴女にも人の心があるだろう? 何故……何故止めなかった? 何故貴女達は彼女を被験者に選んだ?」
「シーッ! 彼女に聞こえちゃうだろ! 被験者なんて言うな!」

世話人が遮る。ヴィンセントは内心ハッとしたが、被験者シャロンと彼ら外の人間達の関係性の不可思議さに納得がいかなかった。

「……何故?」
「何故って、傷付いちゃうだろ。彼女はな、純粋なんだよ」

求めていた答えとは違っていた。だが、これ以上有益な話には展開しないと思い、口を閉ざした。否、聞きたいことは山ほどあった。彼女を被験者にしておきながら白々しくも大切に扱おうとする世話人の態度も、研究者達も、腑に落ちないことばかりだ。しかし、彼が知りたいのはそこではない。こうなった経緯だ。
/ 120ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp