第1章 Coming Closer
彼が初めて彼女の部屋を訪れたのは、白衣の研究員数名の付き添いで一緒に巡回してきた時だ。世話係達の上司であるという白衣の男女数名が代わる代わる部屋を覗き込んでは去っていき、最後に例の男が顔を覗かせた。彼女を見るなり赤い瞳を広げじっと見つめるので、彼女は恥じらい瞳を逸らしたのだ。
「君、名は……?」
「名……?」
彼女は瞳をあちらこちらに揺らがせながら名前らしいものを思い出し、ようやく答えを出す。
「ナンバー……ゼロスリー」
すると男は先ほどよりも大きく瞳を見開いた。吸い込まれるような深い瞳が恐ろしく思え、少し怯む。
「……すまない。失礼だったな……」
落ち着いた低い声が彼女に安心感をあたえるが、どこか気まずく俯いたままでいた。そして彼は突然ぽつりと呟く。
「シャロン」
その場に残っていた誰もが一斉に彼へ視線を浴びせた。しかし彼は気にする素振りも見せずに続けた。
「君に……相応しい名だと思う……」
この時から、名前が与えられたように皆がシャロンと呼ぶようになった。
シャロンの名がどこから出てきたのかは不明だが、彼女はその名をすぐに気に入った。ナンバーゼロスリーよりもずっとあたたかく感じたからだ。
そして彼女は彼に少しの興味を抱く。
「あなたは、白衣を着ていないのですね」
「あぁ……私はタークスだ……。……ルクレツィアの護衛任務でこちらに来ている……」
「…………タークスって?」
彼は驚いたように眉を動かした。不機嫌そうな仏頂面が崩れたのが少し面白く感じられて、彼女の顔色も明るくなり始めていた。
「総務部調査課……通称タークス。特殊任務を受ける部署だ」
シャロンは半分わかったような、少し疑問も残っているような微妙な面持ちでいた。ただ全くそれ以外の情報に無関心な彼女の様子に男は疑問を感じていたのだった。
「シャロン……私を覚えているか?」