第4章 砂時計
「危険は……あったわ。そんな時はロケット村まで行って身を隠すの。時々チョコボが迷い込んでくるから、乗せてもらったりして」
「それでも拠点を変えないのは何故だ?」
「……私、神羅屋敷に大切な人を置き去りにしてしまったの」
「屋敷だと?」
「ええ。あそこは実験施設でしょう。彼が今どうなっているのか、わからないけど……。良い話も、悪い話も全く入って来なくて」
「彼……か。名前は?」
セフィロスがスプーンを置き、手を組んでシャロンの話に集中する。
ヴィンセントの名前を彼に告げることが果たして正しいのかわからない。彼女は悩んだ末、告げる事にした。
「ヴィンセント・ヴァレンタインよ。彼のことがわかるまで、私……」
「…………なぁ、それはお前の想い人だったのか」
「え……」
セフィロスが突然話の腰を折った。想い人。もちろんそうだ。しかし、シャロンは頷くことも出来ずに俯いた。否定も肯定もない。だがセフィロスは確信した。彼女のうるむ瞳が言葉以上にものを語っていたからだ。
「……嫌なことを思い出させたらしいな……」
セフィロスは涙を堪えるシャロンの顔を見ないように視線を逸らし、何も映らない窓の外を眺める。
「いいえ……。あ、それより、スープが冷めてしまったわね。温め直——」
シャロンが立ち上がりセフィロスの食器を覗き込むと、中は空だった。
今度はセフィロスが立ち上がって、シャロンの頭をポンと軽く撫でるように触れる。
「美味かったぞ。それと、今日は色々と悪かったな」
そうとだけ言い残して、セフィロスは自分の用意された部屋へと立ち去った。
残されたシャロンは、はたりと椅子に座り、顔を伏せて静かに涙を流した。様々な思いが込み上げて、自分の思う以上に精神は疲弊しているのだと気づく。セフィロスはそれを察して一人にしてくれたのだろうか?
今日出会ったばかりで、失礼なこともされたというのに、妙な信頼感のようなものが彼に対して生まれていた。
〈セフィロス〉
何かがひっかかる。年齢は? 家族構成は? いつからソルジャーに?
いくつもの疑問が彼女の頭を駆け巡るが、今夜はもう何も考えられそうになくただテーブルに身体を伏せ、ヴィンセントとの最後の記憶を思い出しながら唇を噛み締めた。