第4章 砂時計
「あなたは何故こんな所に? 道に迷ったのなら案内しましょうか?」
「ああ」
男がニブルヘイムを探している、と答えたので、シャロンは早速身支度を整え始める。道案内は慣れている。
「ところでいつからここに?」
「先程からいたが」
「えっ……」
「フッ……少し不用心すぎるんじゃないのか?」
確かに不用心だった。反省しようとしたが、男がニヤついていたのでシャロンは暫し固まって言葉の意味を改めて考え、ようやく理解すると男の左胸辺りに拳をうつ。
「見た……? 見たのね変態!」
「不可抗力だ」
シャロンは赤く染めた頰を手で覆い隠した。存在まで隠したい気持ちだったが、そんな魔法は唱えられない。
「お嫁にいけない。目を背けてくれればいいのに!」
「それをする奴は男じゃないさ」
「もうっ!」
もう一発パンチをお見舞いしようとシャロンが拳を振ると、男はそれを掴み取り、自身に引き寄せる。シャロンは男の腕の中にすっぽりと収まって、状況が把握出来ないように瞬きを繰り返した。
「隙だらけだな。あえてそうしているのか?」
男がシャロンの顎に手を添え顔を近付ける。彼女は瞬きひとつせず男を見つめ、長い睫毛とアイスブルーの瞳が美しいと見惚れると同時に、なんて女慣れしているのだろうと思った。
「目を瞑らないのか」
「やめてよ、キスするつもりだったの?」
「この状況で他のことをする奴がいるか?」
「こんなことする奴のほうがおかしいでしょ」
なんなのだろう、この男の感じは。甘くてそれでいて強い苦しみをもたらす猛毒を含んでいるような危険な香りは。シャロンは小さく首を横に振って、男の腕から離れた。
「あなた、どこから来たの?」
「俺を知らないのか? ……とあるマテリア産業を営む会社からだ」
シャロンの背中を冷水が伝う。やはりこの世界で生きていくならば絶縁は不可能なのか、あの会社とは。しかし、あの会社の兵士といえば皆同じ格好で、あの顔の見えないマスクをしていたはずだ。シャロンは過去の記憶を辿る。
「もしかして、ソルジャー……?」
「ああ。よく解ったな」
ソルジャーといえば、神羅の精鋭部隊だ。大きな会社なだけに、簡単な情報は嫌でもシャロンの耳に入る。ソルジャーといえばもっと無骨なものをイメージしていた彼女は意外に思った。