第3章 いばらの涙
ただ問題は、その状態になるとシャロンが一時的な記憶喪失に陥り、身体もかなり衰弱するということだ。シャロンが死んでしまっては彼女の秘密を暴くことが困難になる。これには科学者も手をこまねいていた。そして彼らは、まず肉体強化をするべきであろうと考えた。
ただの人ではない彼女であれば、それくらいの実験なら耐えうるであろう。
そこで神羅屋敷へ研究場所を移し、他のプロジェクトの合間にシャロンの研究もじっくり時間をかけて進められることになったのだ。
宝条は薬で眠ったシャロンの入るポッドを見上げる。
屋敷に移送してからは、シャロンの暴走を懸念して暫く薬で眠らせておくことにしていた。
そして数日後、脈や数値が正常化したので、早速最初の実験を行うこととした。
「今度は大人しくしていろよ……」
宝条はシャロンの身体を実験台へ横たえ、何種かの注射を打ち、その後太い針を刺した。とある細胞を注入しようと。しかしその瞬間、シャロンの体から無数の荊棘が現れ、注射器と宝条の体を弾き飛ばす。
「うっ……ううあぁ……」
シャロンは苦痛に顔を歪ませ悶えるが、眠りから覚めることはなく、時間と共に荊棘も収縮して落ち着いていく。
「くっ、この女……痛いではないか……全く」
宝条は悪態を付きながら立ち上がりシャロンを見下す。
どんなに今滅茶苦茶に改造してやろうかと憤慨しシャロンを睨むが、一息つけて研究員を呼び出す。
「ナンバー03をポッドの中に戻しておけ……。暫くは本社で行っていた実験で慣らす必要がありそうだ……」
長い溜息をついて、宝条はシャロンに背を向ける。
彼には今、これよりも大切なプロジェクトがあった。計画通りに事が運べばシャロンのプロジェクトとは比べ物にならない成果が出ると踏んでいた。彼は不気味な笑い声を上げながら部屋を出て行った。
シャロンはこうして暫しの時をポッドの中で過ごすこととなる。