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FFVII いばらの涙 邂逅譚

第2章 cradle


促されるままに足を運んだ。檻に入れられ運ばれる。もはや人間の扱いではなかった。

(なにもここまでしなくたって逃げやしないのに。)

 彼女は車に揺られながら神羅ビルでの日々を思い出す。

 何も知らず、何も心配することもなく、自由でも不自由でもなかった。そんな自分に満足していたわけではないが、いつも誰かがそばに居て、色々な話を聞かせてくれて、少なくとも自分が被験者である現実を忘れさせてくれていた。ヴィンセントと出会って様々な感情を知った。それまで感じたことのなかった痛みや喜びを彼は教えてくれた。仕事で遠方へ行っている時以外は毎日会いに訪れてくれていた。
彼は今どうしているだろうか。もう二度と彼に会えないのだろうか。なぜだろう、こんなに胸が苦しいのは。
 彼と過ごした日々をひとつひとつ思い出せば、自然と涙が溢れてくる。
涙の粒を零さぬよう檻の外を呆然と眺め一人考えを巡らせる。

 何故悲しむ必要があろうか。元々自分は被験者で、いつかこうなるのはわかっていたことなのだ。親密になってしまったのは自分の過ち。眠りにつくまでに、気持ちに整理をつけておかなければ。もうどうにもならない、囚われてしまっているのだから。
あと数日後には『自分』は死んでいる。

 警備の為同乗した兵士が哀れむように顔を覗き込んでくるが、シャロンは気丈に振る舞った。

 ただ叶うならばもう一度だけ会いたかった。会ったら何を話そうか。いつも通りに振る舞おう。余計な心配をかけないように。ヴィンセントを思いながら胸を抑える。
彼も悲しんでくれるだろうか? もしそうだとしたら、本当に申し訳ないと思えた。私の存在が彼を傷つけることが。

 屋敷に着くと、門の前で科学者の男が両手を広げて待っていた。

「遅い。何故後発の私より遅いのだ。待ちくたびれたぞ。早く連れていけ」
「はっ」

 別れはあまりにも唐突に訪れた。様々な感情が一度に押し寄せて疲労した彼女は、ぼうっと空を見上げ、外はこんなにも青かったのかと思うと同時に、見慣れた赤色を恋しく思った。

 檻が開かれると、シャロンは覚悟を決めて自ら歩き出した。
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