第3章 ハイキュー‼︎/黒尾鉄朗
「ちょっと聞いてくれる、オレの話」
「…はい?」
突然黒尾さんは話し始める。
いつもこの人のペースだ。
「今日傘持ってきてたのに、自分が忘れたからって夜久…友達がオレの傘持って行っちゃってさ、頑張ってここまで来たけどビショビショだし、コンビニで傘買おうと思ったら売り切れなワケよ。どう思う?」
そしてよくわからない質問を私に投げかけてくる。
「…可哀想だなーと…」
「だろー?てことで、」
「えっ!」
「うわ、ちっっちゃ!」
「えっあの、」
この人のペース過ぎて頭が付いていかない。
私の傘は小さいのに、無理矢理入ってきた黒尾さん。
ちょっとこの身長差じゃ傘の意味ないんじゃないかなぁ…。
「オレの荷物持ってて」
「えっ、あ、はい」
でもなぜか言いなりになってしまう私。
…どうしてだろう。
「さー帰ろ」
「は、はい…?」
「家どっち?」
「あっちです…」
「りょーかい」
不思議、無茶苦茶なのに少し嬉しいと思う自分がいる。
それはおそらく、一人で帰っていた私を雨が寂しい気分にさせていたからだ。
「黒尾さん濡れてませんか…?」
「んー?もう濡れてるし大丈夫」
「風邪ひいちゃいます…あ!タオル…」
「いやいや、大丈夫だって。水も滴るいい男…みたいな?」
さっきクシャミしていたくせに。
「…あ、じゃあ少し待っててください!」
「えっ、ちょっと!濡れる濡れる!」
だったら少しくらい温まるものを。
「肉まん…」
「あったまりますよ!」
冬、寒い時はいつも買っていた。
肉まんを食べると心も体もあったまる。
「…てか、オレ傘持ってるから食べらんねー」
「え、でも右手…」
「食べらんねー」
そう言って口を大きく開ける黒尾さん。
下手したら噛まれそうだ。
「熱いですよ?」
「…オレ猫舌だからフーフーして」
「えっ」
じーっと見られるもんだから、渋々フーフーと冷ます。
そして口に運ぶとパクッと食べてくれた。
「んー美味い」
「あったまりました?」
「うん、あつい」
「?」
そして肉まんを食べきった黒尾さんは、もっと温まると言って私を抱きしめた。
何が起きたかわからなかったけれど、雨の匂いに混ざった温かい匂いが心地良くて、私はそのまま抱きしめられていた。
end