第1章 黒子のバスケ/黒子テツヤ
「雨強いですね…」
「う、うん」
「いつまで降るんでしょう」
「う、うーん」
「…つまらないですか?」
「う、うーん?!ううん!そんなことないよ?!」
雨は強い。私達の距離は、近い。
なんたって、身長差はそんなにない。
それでいて一本の傘に二人いる。
近い、というか近すぎる。
「そうですか」
そうニッコリ笑う黒子くん。
素敵だけれど、こんな至近距離でそんな顔されちゃあ私の心臓がもたないです。
「…も、もう少しマシになってくれればいいのにね〜」
とりあえず何か話しとこう。
じゃないと危ない。いろいろと。
「そうですか?」
「えっ、うん、そりゃあ…」
なのに、彼は意味深に笑う。
「この音で好きなこと言い放題ですから」
「なにそれ、何言うつもりー?」
「そうですね…」
まるでイタズラを思いついた子どもの様に。
「…ボクはもっとこうしてくっついていたいです」
傘に落ちる雨粒は大きく、激しく音を立てて流れていく。
「えっ?なにー?」
「何もないですよ」
こんな距離だというのに、よく聞き取れないのは雨のせい。
「もー、気になるじゃん!」
「そのうち言いますよ」
「そのうちっていつ?」
「…冬、ですかね」
「まだまだじゃん!」
こんな距離だというのに、いつの間にか緊張から落ち着きに変わっているのは君のせい。
「絶対だからね、約束!」
「はい、約束です」
いつかその話を聞いた時、私はまだこうしているのだろうか。
まだ指をくわえて体育館の窓からそっと眺めるだけなのだろうか。
「約束破ったらバニラシェイク奢ってもらおっと」
「それくらいならいくらでも」
「えっ、ウソウソ!」
もう少し心の距離が近づいたら、必ず伝えよう私の気持ち。
彼がよそ見をしないうちに。
「…ボクが先ですからね…」
「えっ?」
「いえ、これもまた後日言います」
「黒子くんの秘密主義ー!」
ボクに笑いかけてくれるそのうちに。
きっといつか、ボクから君に伝えよう。
ーー『好きです』 と。
end