第1章 黒子のバスケ/黒子テツヤ
6月。梅雨だ。
「うわぁー…降ってる…」
梅雨は嫌いだ。
というか、雨が嫌いだ。
頭は痛くなるし、濡れるし、セットした髪もバサバサになるし、酷い時は癖っ毛が直らない。
だから嫌いだ。
「これだから6月って嫌い…」
大好きなモデルのキセリョの誕生月だけど、その日までとその日以降は憂鬱で仕方がない。
「ってか傘が無い…」
いざ帰ろうとすると、傘が見当たらない。
絶対ここに立てておいたのに。
朝は降ってなかったからと持って来ていない人が多かったんだろう。
とはいえ、人のを勝手に持っていくのは如何なものだろうか。
「ありえないんだけど…。その持ち主は濡れても良いっていうのー?」
一人 玄関で雨空に向かって文句を言う。
今は誰もいないからいいけど、普通に見たらただの不審者だ。
「もう濡れて帰るしー!絶対許さないからー!」
とは言っても、誰が犯人かわからないけど。
もうどうしようもないから濡れて帰るしかない。
「それはダメですよ」
「へっ?」
ふと、どこからか声がした。
振り返ってみるが誰もいない。
…空耳?
「コッチです。右です」
「右…?っ、きゃあぁぁ?!?!」
「すみません、驚かせてしまいましたね…」
「あ、あ、黒子くん…」
声の主は黒子テツヤくんだった。
同じクラスで席も隣の彼だが、存在感というものがこれまた薄い。
だけど私は知っている。
彼の純粋で真っ直ぐな顔を。
ある日の朝、たまたま早く学校に来ていた私は体育館で1人練習をしている黒子くんを見かけたことがあった。
その時の黒子くんの表情は、真剣だった。
いつも見る雰囲気とは全然違うその感じに、ドキドキしたのをよく覚えている。
「濡れて帰ったら風邪をひきますよ」
「…でも傘無くなっちゃったんだもん」
「なら、ボクの傘に入っていきますか?」
「えっ」
「今日は部活がオフなので。それに、ボクの傘なら2人くらい余裕で入りますよ」
それに、優しい。すごく。
「じゃあ…お言葉に甘えて…」
「はい」
だけど少し優しすぎる。
彼は何も意識していないのだろうけれど、私にとっては寿命が縮むような事態なのだ。
「もっと寄ってください、濡れますよ」
「えっ、あああうんっ、そーだねっ」
そうです、私は彼が好きなんです。