第4章 黒子のバスケ/赤司征十郎
梅雨はとっくに過ぎた9月。
9月は台風が近づいてくる季節だ。
そのためこの頃、天気の悪い日が続いている。
「今日も雨かぁ…」
雨というのは一般的に気分を下げるものだが、私は少しウキウキになる。
「あ、赤司君!部活お疲れ様〜」
「ああ、。ありがとう」
「どうしたの?ボーッとして」
「…いや、少し考え事をしていてね」
「そっか」
今日も彼と並んで一つの傘で雨を避ける。
「私、雨って嫌いだったんだよね」
「?」
「でも、赤司君のおかげで好きになった!」
「…そうか。オレもだよ」
「へへ」
私の隣にはいつもの彼。
大好きな笑顔、優しい声。
どうかいつまでも、このままでありますように。ーー
「今日の雨は特に酷いなぁ…。さすがにビショビショになりそう…」
ある日の放課後、大雨が降りだした。
そしていつも通り、私は下駄箱で彼を待っていた。
…今日は少し遅いな。
遅くても、よくあることなので何も思わなかった。
何より、大会前であり主将の彼はすることが多い。
仕方のないことだった。
「」
「…!赤司く…ん…」
ようやく現れた愛しい人。
だけど振り向けばまるで知らない人。
「ど、どうしたの…?」
「何がだい?僕の顔に何かついているかな?」
口調は変わらず穏やかだが、優しく温かな彼の雰囲気とは打って変わり、今の彼は冷ややかだ。
気づけば、眼の色も違っている。
一人称までも変わっている。
私の好きだった彼は、そこにはいなかった。
「さぁ、帰ろう」
「う、ん…」
そう言って傘を開くと、彼は歩き出した。
私を、待つこともなく。
彼はもう、違う人なのだ。
だから相合傘をするなんて、そんな考えも無くなっている。
すぐにそれを理解した私は黙って自分の傘を開き、彼を追いかけた。
「、こっちにおいで」
声も表情も、車道側に立ってくれる紳士的なところも、そのままだ。
だけど違う人。
どうしてこうなったのか、一体彼に何があったのか、私にはいくら考えてもわかるわけがなくて。
「それじゃあ、また明日」
「うん…。赤司君」
「なんだい?」
「…気をつけてね」
「ああ、ありがとう」
別人になってしまった彼の背中が小さく見えた。