第2章 一つめは
「……ん…」
窓から射し込んでくる光に、目を瞬かせる。
まだぼんやりする頭を無理矢理起こし、布団から這い出た。
怪我をした場所には、いつの間にか包帯や絆創膏で手当てがされている。
部屋を見回したが、そこに神楽は居なかった。
…あぁ、やっぱ昨日のやつは夢だったか。
この包帯とかも、寝ぼけながら自分でやったんだろうな。
きっとそうだ。
あんなの、現実にあるわけがない。
「さて、と…今何時だ…?」
目覚まし時計を手に取り、時間を見る。
短針は12を、長針は6を指していた。
…おい、ちょっと待て。
今夜中じゃねぇよな?光射してるもんな?
じゃあ…今は…午後、12時半…?
「やべぇっ!!バイト遅刻だっ!!」
半分パニクりながら、部屋を右往左往する。
タンスから適当に服を引っ張り出し、着替えながらその他諸々をこなす。
長いバイト生活の末、身に付けた技術だ。
着替えが終わると、飯食いながら携帯で電話をかける。
2、3回のコール音の後、『もしもし』と渋い声が聞こえてきた。
バイト先の社長だった。
「もっもしもし!三谷っす!すいません!寝坊したんで、遅れますっ!!」
『おー、お前が遅れるなんて珍しいな。わかった。慌てすぎて事故んじゃねーぞ』
「はいっ!!失礼しますっ!!」
通話を切る。
あの人が社長で良かった…。
安堵しながら、俺はすぐにもう一人電話をかけた。
そいつは、コール1回ですぐに出た。
『なんだよ和也。お前と違って、俺は暇人じゃねーんだよ』
「暇じゃねーって、ネットサーフィンしてるだけだろ!お前、原付持ってるよな!?」
『持ってるけど…』
「乗せてくれ!バイト間に合わねぇんだ!!」
まくしたてる様に言うと、そいつは少しの間の後
『見返りは?』
と言ってきた。
あぁ…そうだ。
こいつはそーゆーやつだった…。
呆れて溜息をつく。
が、今は背に腹は変えられない。
「今度何かおごる」
『ふーん、ま、良いか。どこに迎えに行きゃいい?』
「俺ん家に」
『りょーかい。5分くらい待ってろ』
そう言うと、奴…金石 諒 (かない りょう) は電話を切った。
携帯を机に置き、また溜息を一つついた。
時計の針は、まだ12時35分を指していた。