第4章 選ばれた存在。
「は.....?私は現実主義的な考え方しかしてないわ。普通今の世の中、人間なら前方を選ぶと思うけど。」
引っ張られそうになった手を払い、私はそこで仁王立ちして常識を紀伊にぶつける。ヒールの痛みは忘れていて、天に背伸びし睨みつける。
だが、紀伊は穏やかにもほどがあるといいたくなるような笑顔で、すこし足を曲げて「来ればわかる」と言いたげな眼をしていた。
私は「くだらないわ」と言い捨て帰ろうとしたが、手を掴まれ、笑顔で紀伊に言いくるめられる。
「んー.....まあまあ。.....ついてきて。」
珍しく有無を言わせないような口調で、そう言うと私の手を掴む力を強めて、古めかしいカフェともとれる場所の前で止まった。
「ここどこよ。ってかこの建物なに。」
「んー入ればわかるし、入ってから説明するよ。」
(.....まあそうね。ここで此奴の話を聞いていたら日が暮れそうだもの。)
「わかったわ。」
一人で結論付けて、入り口の前の小さな段差をのぼる。
看板にはOPENと書かれていて、その文字の隣には女の子の絵が描かれていた。
だがどうやら、随分前に描いたようで、すこしかすれていて、心なしか女の子は哀しそうだった。
だが、そんなことを気にしている場合ではないと思い返し、私はそれが掛かっているドアに手をかけ、ゆっくりと前に押したんだ。