第9章 恋愛論Ⅷ
「宮原、腕、大丈夫なの。」
「ああ、うん、なんとか。」
久世にその怪我した腕を見せる。右腕はまだ大袈裟に包帯が巻かれている。結局、なんで窓ガラスが割れたのか、原因は不明だった。
「利き手、」
「ん?」
「面倒だろうね、」
「そんな人ごとな。」
人事ですよ、と久世が鼻で笑う。
「補講がねえ、書くのが辛い。」
「そうやって、サボる気?」
「違う!いたって違いますよ、久世さん!さすがに自分のついていけなさに少し焦ってるんですから!」
「そうなの?」
「うん、今日なんて1つもわからなかった。」
「ねえ、早く言いなよそれ、」
「だって、」
言えないよ、皆わかってるんだもん。自分で言うのもなんだけど、うちの高校はこの辺じゃレベルが高い。そんな中で「わかりません」と私だけのために授業を止める勇気は、正直ない。
「なんのための補講なの。」
久世が最もなことを言う。
「すみません、」
ハア、と大きく息つく久世が私を呼ぶ。
「みゃあ、」
「はい?」
「教えるよ、数学。ノート取るのも大変そうだし。」
「え!?」
「明日から僕の横で一生懸命、チカの話し聞きなさい。僕がノートは取ってあげるから。」
「ええ!?あの久世が!?人のために!?」
「なに、人をそんな冷血人間みたいな、」
「え?そうじゃないの?」
「・・・そうだっけ?」
「お願いだから、キャラ設定だけはちゃんとしようよ。」
そう言うと少しだけ声を出して笑った久世が
「たまには優しくしてあげる。」
と甘い言葉を囁いた。
この人は、アメとムチが絶妙です。