第17章 episode Ⅳ 新田 光
「光、ちょっと待ってよ」
先にわざと家を出た俺を走って呼び止める。同じ制服を着た、同じ顔をした男。
俺に追い付くと湿った腕で肩を組んで。この暑い日にベタベタベタベタ。
「洸、やめろ、暑苦しい」
横目でそいつの手を払い除ける。
「しょうがないよ、夏だもん」
そう言って笑うのは、新田 洸(にった こう)。双子の片割れ。
「違う、暑苦しいのはお前」
「あ、ひっどいなあ、
こんなに弟の事好きな
兄貴はいないと思うよ?」
ヒカル、ヒカルと毎朝俺が家を出る同じタイミングで家を出る。なんで中1にもなって兄貴と2人仲良く登校しなくちゃいけないんだ。
「生まれた日は一緒」
「残念、世の中にお披露目されるのが
1秒だけ早かったの、俺が」
満面の笑みを浮かべて俺を見る洸が言った。俺はこいつの、こういう兄貴ズラするとこが大っ嫌いで。
「うざい」
「まあまあ、
そんな寂しい事言うのはやめようよ光。
今までと勝手が違うんだから」
俺たちは越してきたばかりで、夏休み明けのこの日が初登校である。つまり"仲間は俺しかいないでしょ?"と余裕の表情をする洸。
「洸がいない方が俺は」
言いかけた言葉を飲み込むと、それを黙って聞く体勢だった洸がニッコリ微笑み
「ねえ、どうする?
また見分けつかないって言われるよ」
こっちの気まずい雰囲気なんてお構いなしに、違う話題を振ってくる。
「早く友達出来るといいな」
洸が笑って少し足取りを早くした。
まるでこれからの新生活に夢や希望でワクワクが溢れるように。
「………、」
友達なんて別に早く出来ても、出来なくてもよかった。
学校生活において俺の役目は、洸を引き立てる被写体でしかない。