第2章 恋愛論Ⅰ
「ねえ、宮原、」
久世が攻撃の矛先を私に向ける。急すぎてこの人には対応できない。
「は、はい」
「鼻の下伸ばしながら
僕を見ないでくれる?」
「え!まさか久世も最初から」
「諸星の声が大きくて廊下まで聞こえてた」
「ああ、そう…、」
「上の階まで響いてるかも、ねえ?」
久世が真顔で私に言った。
う、えの…階…?
「先輩も宮原の新しい一面知れて、
さぞかし喜んでいるだろうよ」
そう言って上品に涼しく笑う久世。
「も、諸星め…!
(久世め!なんて言う勇気は毛頭ない)」
「なんだよ、宮原ぁ!
好きな奴の名前を本人の前で出すなよー!
照れんじゃん!」
「へえ、みゃあって
諸星のこと好きだったの?初耳」
久世はテンションが上がると私のことを「みゃあ」と呼ぶ。以前一度だけ「なにそれ」と突っ込んだ時、真顔で答えてくれたことがある。彼曰く「宮原→みや→みゃあ」の原理らしく。
「そんなこともわからない?
宮原はユーモアの欠片もないね」
なんて言われた。
こっちからしたら毒舌のくせに自分のことを「僕」なんて、今時の高校生にしてはかなり珍しい一人称とか、そんな可愛いあだ名つけるところとか、そっちの方がよっぽどわからない。
だがしかし、そんな久世から呼ばれるこのあだ名、実は嫌いじゃない。