第11章 episodeⅠ橘 有雅
「言っときますけど、先輩のシスコンぶりも変態ですよ。」
「まあね、」
鈴音が高校に無事入学が決まって少しした頃に、見たことない顔して「好きな人が出来た」と言った。鈴音にはカッコつけて「へえ」なんて言ったけど、内心どんな男なのかと気になってしょうがなかった。
またしばらくして、今度は「振られちゃった」と目を赤くして、笑いながら言ってきた。鈴音の願いは何でも叶えたい。
あの日、役割を交代したあの日から、僕は鈴音の幸せを叶えるために生きるって決めたから。
「鈴音ちゃん、さぞかし可愛いんでしょうね。」
ニヤニヤしながら宮原が言う。
可愛いなんてもんじゃない、僕の大切な妹だぞ。
「お前の一千億倍可愛い。」
「もはや数値にリアリティーがありません。とりあえず、先輩見てたらある程度わかるので、毎度毎度、私と比べないでもらえません?」
少し前までは僕のことが好きだと言ったのに、今では気になる人の相談までしてくる女。ほんとに神経図太いな。
ただ、こいつとの空間は、この学校で唯一、素の自分を出せる時間だった。