第11章 episodeⅠ橘 有雅
家を出て、年齢を偽ってバイトをした。寝る場所なんて何処でもいい。風呂は銭湯に行けばなんとかなるし、飯だってコンビニがある。中学三年にあがる頃には、部屋を借りた。名義は祖父のものを貸してもらった。「一人で勉強に没頭したい」という理由で。今思えば、そのことも母の耳には届いていたのかもしれない。
自由になってからは学校の行事にも参加した。これまでは父の「行事なんて参加する暇があったら勉強しろ」と言う教育方針で、体育祭すら経験したことがなかった。
そんな僕が突然行事に参加するようになったことに、クラスメイトは違和感があったみたいで、やはり少し距離を感じた。
僕も人付き合いがうまい方ではなかったから、全てを出せる「友達」なんて作れるわけはなく。ただ、何かとこの「見た目」と「家柄」のせいでちやほやされるだけ。
いつの間にか僕の中には、もう一人の僕がいた。