第13章 瞼の裏の暗闇を星空に変えてくれたのは君だった。(縁下力)
春高予選、対和久南戦。
「大地さんっ!!」
「…すまん」
「良かった!次の試合は出られるんですか!?」
「あぁ」
負傷した大地さんが帰ってきた事に俺はホッとしてしまっている。
これじゃダメだろ……!
「ラストのアレ、ナイスレシーブ縁下」
「……!」
まだまだこの人の背中には到底追い付かない。
次の試合も自分が出るつもりでいないとダメなのに…!
何を安心してるんだ……!
込み上げてくる気持ちを抑えるべくトイレで顔を洗う。
「ちくしょう……」
こんな俺じゃまだあの人に背中を見せられない。
ユニフォームで乱暴に顔を拭いてトイレを後にする。
「…力?」
「……!」
この一年、一日だって忘れた事はなかった。
あの日と変わらない綺麗に笑う彼女。
「さ……ん…?」
「久しぶり…っ!」
そう言って俺に抱き着く彼女の脚にあのサポーターがない事に気付く。
「さん…!どうしてここに…っ!脚は…!」
「力、ちゃんと観てたよ」
「…!」
「あんなに大きく跳べるんだね、すごいよ力」
ぎゅうっと俺の首に回された腕。
折角引っ込んだ涙がまた溢れそうになる。
「私も、力みたいに跳ぶよ」
「…え?」
「今度は私の番」
「さん…手術…」
「うん、終わった…リハビリもちゃんとしてる」
「そ…うですか……」
顔をしっかりと見合わせる。
まだ、信じられない…もう会えないと思っていたから。
「背が伸びたね」
「さん」
「ん?」
「抱き締めて良いですか」
「……ちか…っひゃあ!」
納得のいくプレーなどまだまだ出来てない。
だけど、彼女はそんな俺をちゃんと観てくれていた。
「力…」
「すいません、俺汗かいてるのに……でももう少し良いですか」
「……うん」
胸を張って貴女に会いに行ける日が来たら、
自分の中に芽生えたこの気持ちを素直に貴女に伝えよう。
もっともっと
「俺、大きく跳びますから」
「…私も、負けないよ?」
そっと背中に回された手は、俺のユニフォームを掴んで放さない。
彼女の顔は自信に満ち溢れていた。
大丈夫、きっと俺も同じ顔出来てる筈だから。
END