第13章 瞼の裏の暗闇を星空に変えてくれたのは君だった。(縁下力)
「…だから、あの時の私と同じ顔をしてるんだ」
「……っ!」
さんの顔を見つめる。
オレンジの空に薄い茶色の髪がまるで溶け込む様に見えた。
もう跳べないと、わかってる人の顔には到底見えない強い瞳。
「ねぇ、力」
「…はい」
「力の翼はまだ折れてないよ」
さんはゆっくりとベンチから立ち上がり俺に手を差し伸べる。
引き込まれる様に、自然と彼女の手を取った。
そうして立ち上がった時に漸くさんの手を握っている事実に気付いた。
「すいません…っ!俺、いつまでも…!//」
咄嗟に手を放そうとするが、それはあっさりと彼女に阻まれる。
それどころかさんの華奢な手は俺の手を強く握っている。
女の子に手を握られた事などない。
こんな時、どうするのが正解なのか俺にはわからなかった。
「力…身長いくつ?」
「身長…ですか?今どれくらいかちょっと正確には…」
「私の見たところ170ちょいってとこかなぁ」
繋いでいない手を俺の頭にそっと当てて微笑む。
「ちょうどこれ位なんだ」
「…これ位って?」
陸上の事はあまり詳しくはないけれど、さんの言った事がすごいって事はわかった。
「私の最高到達点」
言葉は誇らしげに聞こえるのに、
顔は何かを堪えているように辛そうに見えた。
あぁ、きっとこれが俺と同じ顔なんだ。
無意識に俺はさんの頬を手で触れる。
嫌がられなかった、その事に少しだけ胸が熱くなった。